自社牧場「千成亭ファーム」
飼育職人の私たちに、まずできること。
当牧場では、現在136頭の牛を育てています。 牧場の近くに、口蹄疫感染防止幹線道路があるんですが、数年前に口蹄疫が出て、このあたり一帯の畜産業者が、個々にももちろんですが、 地域で対策をしています。
石灰をまくことで、完璧ではないにしろ、外からの侵入を防ぐ、ということです。 個人的な考えでは、本来はあまり畜産に直接関わりのない方が牧場に来られるのは、好ましくないと思っています。どこからどう回ってきて…という経路が分かるものではありませんから。
牛を安全に育てるためには、出入りする人間は最小限が良い。 それもまた、「組織として、できること」だと考えています。
まずは血統。その次に、餌なんです。
素牛、子牛ですね、これが入ってくるのは熊本が中心なんですが、生後10カ月ぐらいで入ってきて、それを20カ月育てて、計30カ月で出荷します。
この牧場にいる20カ月の間に、1頭あたり4.5〜5.0tの餌を食べます。 その餌が身体をつくっていくわけですから、餌も大切です。
ですから餌については安全性を徹底し、オリジナル配合飼料【なでしこ】を使用しています。
千成亭が求める、脂質が多い牛を育てるための配合です。
肉質に関しては、素牛の血統が6割〜7割を占めると言われていますが、餌が悪いとその血統も無駄になってしまう。
脂質や風味というのは、血統だけでは保てないんです。餌、血統、そして管理の腕、技術ですね。
管理技術を具体的に説明するのは難しいのですが、1gでも50gでも、餌を多く食べてもらうようにしたりする、というようなことです。
十人十色。百牛百色。
つまりそれだけリスクがあるということです。
この時期にはあまり与えないとか、成長にあわせて与えるビタミンの量を調整するんです。これが産肉理論で言うビタミンコントロールです。
ビタミンが多いと肉の色が濃くなったり、サシが入りにくくなってしまったりしますので、生後14~16か月ぐらいはビタミンはほとんど与えないんです。
牛によって個体差もありますから、様子を見て個別にドリンクを飲ませてみたりもします。
ですので136頭いたら、育て方は136通りと言えるかもしれません。
出荷直前の牛というのは、かなりギリギリの状態なんです。一線をわずかに越えるか越えないかで、商品として成立しなくなる可能性もある。
30か月、大切に育てても最後の一瞬で肉質が悪くなってしまうかもしれないわけです。
肉質は変わりませんが、色が悪くなったり、それ以前に突然死んでしまうこともあります。
餌と、衛生面と、両面のケア。つまり、量は食べたいだけ食べていますが、餌の内容でストレスを与えている分、衛生面ではストレスを与えない、ということです。
ちなみに、角を落とす場合がありますが、それもストレスコントロールの一環です。生後3カ月ぐらいで切って、切ったあとを焼いておくと生えてきません。
コンスタントな生活サイクルが大切です。
そして1年を通して同じリズム、サイクルを崩さないことが大切です。 1日のスケジュールは、意外とまったりしていて、驚くほど朝が早いわけではありません。
7:30ぐらいから健康状態を見ながら場内を一回りして、朝晩の2回、餌を与えますので、その際に健康状態のチェックと共に、前の晩やった餌が散らかっていたりすると、寄せ直してやるんです。
そのままにしておくといつまでも食べないんですね。さらにミネラル分を足してやったり。その上で朝の餌をやります。
血統、餌、そして生活環境のバランス。
運動は、あまりさせません。その分、肉や脂肪にしていく。それが肥育という分野です。肥やして育てる。 畜産文化の中には繁殖、保育育成、酪農などがありますが、その中に肥育があるわけです。
生まれて10カ月育てられた子牛を、各牧場が競りで買う。そして20カ月育てて初めて、近江牛になります。
それも全ての牛が近江牛になるわけではありません。A-4からA-5ランクしか近江牛にはなれません。
例えば、子牛の頃に兄弟の牛がいたとして、育てた場所が異なると、食べる人によっては分かるレベルで味に違いが出ます。
同じお父さんで、同じ環境で育てたとしても、脂肪交雑はあります。ただ、脂肪交雑はさほど味には影響しません。
逆に同じ餌を食べていれば、他の牧場で育っていても似た味になるということです。
血統と交配、餌という大きな要素を、きちんと管理ができているかどうか。
6割〜7割を決める血統の良さを、いかに保つかが腕の見せ所ということです。